知床遊覧船社長に「コンサル指導」、カリスマ社長がラジオ降板 事故直後には記事削除要請も

   北海道・知床半島沖で起きた遊覧船沈没事故から、2022年5月23日で1か月が過ぎた。

   その裏では、事故を起こした遊覧船の運営会社にコンサルティング指導をしていた企業の社長のウェブ記事が、いったん削除される騒動が。さらに、同社長が出演していたラジオ番組も5月で終了していた。一体何が起きていたのか。

5月19日に終了が発表された「武蔵野プレゼンツ 小山昇の実践経営塾」番組公式サイト

「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」

「小山が編み出した『儲かる仕組み』を徹底して学び、徹底して真似するだけ。業種業態を問わず、あらゆる企業に活用できます」

   企業コンサルティングを手がける株式会社武蔵野(東京都小金井市)の公式サイトには、こんな言葉が踊っている。「小山」とは、武蔵野の代表取締役社長・小山昇氏のことだ。

   武蔵野は1956年に創業。公式サイトによると、当初は薬局としてスタートしたが、64年にダスキンと契約し清掃事業に進出した。89年に社長に就任した小山氏は「『大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団』を毎年増収の優良企業に育てる」(小山氏のプロフィールより)と手腕を発揮。その経営ノウハウを生かし、01年からはコンサルティング事業に乗り出し、21年現在で750社以上の会員企業を指導している。

   経済系メディアへの露出が多い小山氏。経営に関する著書も多数出版されている。ダイヤモンド社のウェブメディア「ダイヤモンドオンライン」には、09年〜21年にかけて小山氏の記事が掲載されている。

   そして、18年4月1日の記事「なぜ、世界遺産知床の『赤字旅館』はあっというまに黒字になったのか?」では、今回知床で事故を起こした運航会社・知床遊覧船の桂田精一社長が手がける宿泊業者・有限会社しれとこ村にまつわるエピソードが綴られていた。

「読み直そうと思って見に行ったら…」

「いい宿ですが、桂田精一社長は有名百貨店で個展を行うほどの元陶芸家で、突然ホテル経営を任され、右も左もわからないド素人。運よく何もわからないから、小山にアドバイスされたことは『はい』『YES』『喜んで』ですぐ実行した」(記事より)

   小山氏は17年夏に知床を訪れた際、武蔵野の経営サポート会員でもある有限会社しれとこ村の宿泊施設に泊まったという。小山氏は桂田氏に経営を指導したことで「赤字の会社があっというまに黒字に変わった」と振り返り、「知床観光船が売り出されたとき、私は、『値切ってはダメ! 言い値で買いなさい』と指導した」と、知床遊覧船買収についてのアドバイスを行っていたことも明かしていた。

   しかし、知床で事故が発生した2日後の22年4月25日、この記事が閲覧不可能となった。ネット上では「読み直そうと思って見に行ったら無かった」「なんで削除した?」などと困惑の声が広がっていた。

   ただ、28日になると、記事が再び見られるように。文末にはダイヤモンド社書籍オンライン編集部名義で、以下の追記文が記載された。

「本記事は2022年4月25日に公開停止しましたが、不適切な判断でした。同年4月28日に再公開しました」

   J-CASTニュースが5月2日、記事を掲載したダイヤモンド社にメールで取材すると、書籍編集局の担当者が「2022年4月25日に公開停止としたのは不適切でした。お詫び申し上げます。いったん削除はいたしましたが、中立・公正の立場を貫くべきメディアとして再公開するのが適切と判断いたしました」と回答。記事が一時非公開になった理由については「当方でお答えできかねるため対応は株式会社武蔵野さまに一任している」とした。

「『何かを隠しているのではないか』との疑念を招きかねない」

   記事の公開停止について同日、武蔵野の総務担当者に取材を申し込んだ。すると、翌3日に同社の公式サイト上で「WEB等の一部記事に関する当社の見解について」という小山氏名義の文書が掲載された。

   文書の冒頭で「この度の知床半島観光船海難事故について、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申しあげるとともにご遺族の方々にお悔やみ申し上げます。また、行方不明の方の一刻も早い発見と救出を、心からお祈り致します」と知床事故の遺族を追悼。そして、事故を起こした運営会社に、武蔵野がコンサルティングを行っていたことを明かした。

   ダイヤモンドオンラインの記事については、記事の著作権を持つ小山氏が「現在の事故後の状況からして、元々の記事(その時点で)の真意が伝わらず、誤解を招く恐れがある」と判断し、記事の削除をダイヤモンド社に要請。しかし、「それが逆に『何かを隠しているのではないか』との疑念を招きかねないとの判断から、再公開に同意した」と説明した。

   また、知床遊覧船の買収をめぐる助言の中身について、「当該記事執筆時点、あるいは私、小山の知床訪問時点では、あくまでも事業(遊覧船)引き継ぎ(買収)に当たっての総合的な経営判断の観点からのアドバイスをさせていただきました。買収に踏み切るのであれば、安全面を考慮すると、人員、桟橋、待機場所含めて買わないといけないと助言をしました」「価格を安く買うのでなく、提示された価格で買いなさいと助言をした」と説明した。

   知床遊覧船では事故の前に従業員の退職が相次いでいたと報じられたが、武蔵野側は「従業員の解雇についての相談は受けておりません」とした。

小山氏のラジオ番組も終了

   ただ、武蔵野のメディア露出をめぐる動きはこれだけではなかった。

   小山氏はラジオNIKKEIで「武蔵野プレゼンツ 小山昇の実践経営塾」という番組を毎週木曜日に放送していた。同氏の経営ノウハウをリスナーに伝えるもので、SNS上では質問なども受けつけていた。

   しかし、4月28日の回はプログラム変更により放送されず。するとその翌週、5月4日には番組の休止が伝えられ、19日には番組の放送終了が発表された。最後の放送は、知床で事故が起きる2日前の4月21日だった。

ラジオNIKKEIの広報担当者は5月26日、取材に「出演者から番組出演を取りやめたいという意向を受けました」と放送終了理由を説明。「意向」の具体的な中身、今回の遊覧船事故との関連性について武蔵野にも書面で回答を求めたが、期日までに回答はなかった。

知床遊覧船社長に「コンサル指導」、カリスマ社長がラジオ降板 事故直後には記事削除要請も: J-CAST ニュース【全文表示】


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